2026.05.26
クロスの糊がない? 建築費高騰と資材不足のいま、住まいづくりで考えたいこと
1. 現場で感じた小さな異変
5月23日、コーナンPROへ向かいました。
内装の材料を探すために、店内をうろうろしていたときのことです。
クロス用の糊が、見当たりませんでした。
最初は、自分の探し方が悪いのだと思いました。ホームセンターで探し物をするとき、人はだいたい一度、自分を疑います。
「この棚じゃないのかもしれない」
「そもそも自分は、糊というものの売り場を正しく理解しているのか」
そんなことを考えながら、品名のふだを一つずつ読み上げるように見ていくと、ようやく気づきました。
棚が、空っぽ。
念のため、店員さんに尋ねました。
すると、「今あるのが全てでして……」と、申し訳なさそうに言われました。
こちらが責めているわけではありません。店員さんが悪いわけでもありません。
それでも、空の棚を前にして「今あるのが全て」と言われると、なぜかこちらまで少し申し訳ないような気持ちになります。
不安というよりも、最初に出てきた感想は、
「そんなことあるの?」
でした。
駐車場へ戻り、車の扉を開ける前に、スマホで近くのホームセンターを検索しました。国道沿いには、コーナンPROやロイヤルのように、現場で足りなくなった資材を買いに行ける大型店舗があります。
「まあ、どこかにはあるだろう」
そう思って、いくつかの店舗に電話をしました。
けれど返ってきた言葉は、どこも似ていました。
「すみません、現在、もうなくて」
「今は在庫がありません」
「次の入荷は、はっきりとは……」
もちろん、これは筆者が確認した店舗での一時的な状況です。全国的にクロス用の糊が不足している、と断定するものではありません。店舗ごとの在庫状況や発注のタイミングによって、たまたま品薄になっていた可能性もあります。
ただ、リフォームや内装工事に関わる立場から見ると、この小さな品薄感は、どうにも気になります。
クロスそのものがあっても、糊がなければ貼れません。
材料がそろっているように見えても、副資材が一つ欠けるだけで、工事は予定通り進まなくなります。
建築費の高騰や資材不足という言葉は、ニュースで見ると少し大きな話に聞こえます。木材、鉄骨、コンクリート。そういう、いかにも建築らしいものの話に思えます。
これは、かなりヤバいっすよ。
壁面のビニルクロスの前に、それを貼り付ける「糊がない」という衝撃。
製品名は「ルーアマイルド」。一般的には、世にその名は知られども日本中のほぼすべての居住空間の壁面に存在しているといっても過言ではない素材。… https://t.co/G1lLd78JP8— 建築エコノミスト森山高至「土建国防論」執筆中 (@mori_arch_econo) May 21, 2026
建設資材の価格や在庫の動きは、現場の感覚だけで語られているものではありません。
国土交通省は、主要建設資材について、価格動向、3カ月先の価格見通し、在庫状況などを継続的に調査しています。対象には、鋼材、木材、セメント、生コンクリート、アスファルト合材など、建設工事に欠かせない資材が含まれています。
また、一般財団法人建設物価調査会も、建設工事で使用される資材の価格動向を示す「建設資材物価指数」を公表しています。
つまり、「最近、材料が高い気がする」「前より入りにくい気がする」という感覚は、単なる気のせいとして片づけられるものではありません。もちろん、地域や資材の種類によって状況は異なります。それでも、建設資材の価格や需給が社会全体で確認されているテーマであることは確かです。
住まいづくりやリフォームを考えるとき、私たちはつい、目の前の見積書だけを見て判断しがちです。
「この金額は高いのか」
「もう少し待てば下がるのか」
「他の業者なら安いのか」
もちろん、それも大切です。けれど今は、それだけでは足りないのかもしれません。
公的な調査や物価指数を確認しながら、なぜその価格になっているのかを考えることが、以前よりも大切になっています。
根拠資料:
国土交通省「主要建設資材需給・価格動向調査」https://www.mlit.go.jp/statistics/details/t-kgyo-2_tk_000012.html
建設物価調査会「建設資材物価指数グラフ」https://www.kensetubukka.or.jp/indexgraph/shizai.html
2. 内装材・接着剤・副資材にも、ナフサなど石油化学原料の影響が及んでいる
建築費の高騰というと、多くの人は木材や鉄骨、コンクリートを思い浮かべるかもしれません。
たしかに、それらは建物を支える大きな材料です。
値上がりすれば、工事費全体に大きな影響が出ます。
けれど、建築は大きな材料だけでできているわけではありません。
壁紙があり、床材があり、接着剤があり、糊があり、シーリング材があり、見積書の中では小さく見える材料がいくつも積み重なっています。そういうものが一つずつ値上がりしたり、入りにくくなったりすると、最終的な工事費や工期にじわじわ効いてきます。
内装材大手のサンゲツは、壁装材、床材、ファブリック、エクステリア、副資材、接着剤などについて、取引価格の改定を発表しています。その理由として、原油・ナフサをはじめとする石油化学原料の上昇、サプライチェーンの混乱、製造・物流コストの上昇などを挙げています。
ここで大切なのは、クロス用の糊が店頭で見当たらなかったことを、すぐに「ナフサが原因だ」と決めつけないことです。
店舗の在庫、発注のタイミング、需要の集中など、理由はいくつも考えられます。
ただし、壁紙や床材、接着剤、副資材が石油化学原料の市況と深く関わっていることは確かです。メーカー自身が、価格改定の理由として原油やナフサを挙げている以上、内装工事に使う身近な材料も、原材料価格や供給網の影響から無関係ではいられません。
「クロスの糊がない」という出来事は、一見すると小さな話です。
けれど、その小さな棚の空白の奥には、原材料、物流、メーカーの価格改定、そして現場の段取りまで、いくつもの問題がつながっているように見えます。
建築費の高騰は、構造材だけの話ではありません。
壁紙、床材、糊、接着剤。
目立たない材料にも、影響は少しずつ広がっています。
根拠資料
サンゲツ「取引価格改定に関するお知らせ」https://www.sangetsu.co.jp/information/detail/20260413130548.html
3. 人手不足・人件費も建築費高騰の要因
人手不足が著しい一部のブルーカラー業種は過去5年間の賃金が大きく伸びている。一方、ホワイトカラーは専門職と事務系職に格差が生じている。#AI #賃金 #人手不足 #賃金格差 #賃金上昇率https://t.co/wmqoc0EP7P
— nippon.com 旅と暮らし (@nippon_tabikura) May 26, 2026
建築費が上がっている理由を、「材料が高いから」とだけ考えると、少し見誤ります。
もちろん、資材価格の上昇は大きな要因です。
しかし、現場を動かしているのは材料だけではありません。人です。
職人がいなければ、材料があっても工事は進みません。
技術者が足りなければ、工程は組みにくくなります。
人手が足りなければ、工期が延びます。
工期が延びれば、その分、費用もかかります。
建設業界では、職人や技術者の不足が長年の課題となっています。さらに、人材を確保するための人件費も上がりやすくなっています。
帝国データバンクの調査では、2025年の建設業の倒産件数が4年連続で増加し、過去10年で最多となったことが報告されています。その背景には、建材価格の高騰だけでなく、人件費の上昇や工期の長期化といった要因もあるとされています。
つまり、今起きている建築費の高騰は、どこか一つの原因だけで説明できるものではありません。
資材価格、物流費、人件費、工期、職人不足。
それぞれが別々の問題のように見えて、現場では一つの見積書の中にまとまって現れます。だからこそ、見積金額だけを見て「高い」「安い」と判断するのではなく、その背景に何があるのかを見る必要があります。
根拠資料:
帝国データバンク「建設業の倒産動向 2025年」
https://www.tdb.co.jp/report/industry/1lm_mer_4e/
4. 早めに動き、優先順位を決める
では、こうした状況の中で、これから新築やリフォーム、空き家活用、民泊改修などを考えている人は、どうすればよいのでしょうか。
一つ言えるのは、「安くなるまで待つ」だけでは、判断が難しくなっているということです。
もちろん、資材によっては価格が落ち着くこともあります。
一時的に在庫が戻ることもあるでしょう。
けれど、原材料費、物流費、人件費、職人不足といった要素が重なっている以上、以前のような価格感に自然と戻るとは限りません。
そして、希望する商品や材料が、いつでもすぐに手に入るとは限りません。
クロスの柄を選ぶ。床材を選ぶ。設備を選ぶ。
そうした一つひとつの選択にも、以前より少しだけ現実的な視点が必要になっています。
リフォームや内装工事では、クロスのグレード、床材の種類、設備の仕様によって、費用も納期も大きく変わります。だからこそ、すべてを理想通りに進めようとする前に、優先順位を決めておくことが大切です。


