2023.06.30
閉店店長インタビュー┃京都市北区 デカい穴
北区、船岡温泉を西に、千本鞍馬口の静かな住宅街に、
「デカい穴」と書かれた一際目を引く看板が鎮座している。
佛教,大谷,京産,同志社,立命という大学五芒星の中心に位置する店は、
ブラックホールのように、学生たちを薄暗い穴へと吸い寄せていた。
そんな店が、あと4日で閉店を迎えようとしている。
感染症の息苦しさからの脱出口でもあったこのアジール。
そこで過ごした日々は、記憶の底へとそっと仕舞われていく。
自由を求めた時代の思い出は、いまこれからを生きていく糧である。
Horiuchi
お店の開業を考えていらっしゃるお客様にむけて、
ShuJu不動産では、自身の通うおススメのお店を紹介していきます!!
今回は、大学生からの支持を集めながらも残念ながら7月4日で閉店する「デカい穴」の店長・太田伸甫さんをインタビューします。
大学のボックスみたいな空間が、ほしかった。
―デカい穴のコンセプトを教えてください。
太田:コンセプト的に言ったら、大学のボックス(部室)が欲しいって感じですね。
大学時代に第三劇場って演劇サークルに入ってて、そのボックスがまさしくこんな感じ。
物が多いし、引退して就職していく先輩が、どんどん自分の物を不法投棄して、もうごた混ぜになっていく。
僕はその空間が超好きで、そこでずっと居着いて、授業を何個か落としたりみたいなの繰り返す生活やったんで。
ボックスで駄弁ってダラダラするのが好きだったんで。大学の外でそういう場所が欲しいっていう、そういう感じですね。
―Bar電球もそうですけど、こういう界隈って演劇出身者多いですよね。営業時間とか価格帯はどう決めたんですか?
太田:営業時間は最初、なんか喫茶店的にやろうと思って、3時から11時半。深夜まわると眠いしな、みたいな。
だんだん「長いとダルいな……」って思って6時半開始になった感じですね。
価格帯は……僕、ホントにバーに行ったことがなくて、マジで。普通にノリで決めて。
全然飲めないです。
ほろ酔い一缶飲みきれないし、
ビール半分でもダメなんです。
―それでどうやってバー始めたんですか?
太田:なんかサントリーのお客様お問い合わせ窓口みたいなのに電話して「バーやるんですけど」って言ったらなんか、来てくれて。
―来てくれるんだ。
太田:サントリーが「このお酒出すんだったら、こんぐらいの金額で出すのがいいっすよ」みたいな原価率と利益の表みたいなの持ってて。
「サワーを一杯出せば利益アップだ」みたいなことが書いてる、飲食店用の虎の巻物。それも参考にしつつ決めたって感じです。
このサーバーも無料リース。グラスも無料でくれて。
大企業って、圧倒的資本の力で全部掴んでるんだなって。
―すごいなサントリー。
太田:やばいです。サーバー調子悪くなったときも言ったら、2時間後とかに「うぃっす」つって。
機動力がハンパないですね。デカいところは。
おかげさまで、いらない焼酎20本ぐらい買わされたりとかあったんですけど。
酒の種類は多いですね。
全部言われるがままに買ってたんで。
―サントリーさん。
太田:サントリーさんが「太田さん、碧(あお)ってウイスキーが今きてて、いいっすよ」みたいな。
パッと見たら値段5000円ぐらいして。
上手っすね。サーバーのリースとかで恩を売って、こう。
で、誰もあんま飲まない。
―碧(あお)、めっちゃ残ってるじゃないですか。
太田:最盛期7本ぐらいありましたね。
「太田さん、大隅のこのソーダ割、マツコ・デラックスがCMやってて若い人にめっちゃ今ウケてるんですよ。どうすか、12本」
「えー、いいっすねぇ」
「サービスしますよ、もう6本とかつけますよ」
「ええっ! じゃあ……」
っつって。
元気に丸々4,5本まだ残ってる。
―サントリーからしてもそんなことなかなかないでしょうね。
太田:カモですからね。知識がなくても、バーとしての体裁は保てます。
―それで採算はとれてるんですか?
太田:なんか、いけてますね。めちゃくちゃ飲んでくれる人とかもいてって感じで。
最初は場所だけ借りようと思ってたんで、
どうやってお金もらったらいいんだろうって。
「ドリンク出したらお金もらえるかな」ってのが始まりで、
カタチ的にバーになった感じですね。
―そもそも店を始めた理由が気になります。
太田:4回生になるとみんな就活するんじゃないですか。周りが就活してる姿見て、なんか絶対就職できないなって。
安直に「じゃあ飲食店か」みたいに思ったんですけど、僕料理ができないんで。
カレーってなんか楽そうだなと思ってカレー屋やろうと思ったんですよ。
でもお店借りるのはお金かかるなって、まあ素人でもわかるじゃないですか。
だから野外でカレー売って生計立てようと思って、金属ラックとかカセットコンロとか買って、カレーを売る準備を進めてたんですけど。
「米、保温できないな」ってことに気づいて。
そこから、フレスコで売ってるセミ餃子をそのまま焼いて売るってことを鴨川デルタの前でやってて。
最初はそれでやっていくかと思ってたんですけど、知り合いが知り合い呼んでくれて。
でも、雨とか降るとみんな解散するし。
だんだんなんか、作ったものを売るより人が集まって喋る方が楽しくなってきて。
屋根のあるテナントで人を集めたいなって思って物件探して。
―物件はどうやって探したんですか? やっぱネットとか。
太田:そうですね、最初はSUUMOとかアットホームとか、なんかいろんなポータルサイトで探してたんですけど。
不動産屋凸った方がいいみたいな記事をなんか見て、じゃあ凸るかと思って。
京都って通りが碁盤の目になってるじゃないですか。
こう、全部縫うようにチャリで走って、不動産を見つけたら凸るみたいな、ゲーム感覚でやって。
多分30店舗とかそんぐらい、凸れるだけ全部凸るみたいな。
僕、SUUMOに全てが載ってると思ってたんですけど、別にそんなことなくて、やっぱ行かないとわからんこともあるなって。
―特にテナントはそうでしょうね。
太田:僕が「安い居抜きを借りて人を集めたいんです」って構想を言ってたら、千本通りにある不動産屋さんがすごいバカ受けしてくれて。
「楽しそうっすね」みたいな。ノリノリの不動産屋さんがノリノリに探してくれて見つかった。
他の不動産屋さんは「いや、そんなんないっすよ。安い居抜きなんてないっす」とか言って。
とりあえず連絡先は交換してくれるけど、連絡はないみたいな。ノリノリの方に出会えたんで、ラッキーだったって感じです。
―たまにそういう不動産屋もいますよね。30軒ぐらい回るってどういう感じだったんですか?
太田:やっぱ効率化した方がいいじゃないですか。なので、条件全部リストにして。
まず5万円台。居抜き。で、空中(2階以上)か地下問わず。ひたすら安ければいい。居抜きだったらなんでもいい。エリアももう、駅から遠かろうが、どうだっていいっていうのを頭の中に入れて。
不動産屋入って即「これこれこう探してるんで」って、もう雑談抜きでバーって言って。
相手がちょっと渋くて、なさそうだったら、もう撤退して次行くみたいな感じでガーっていく。
明らかに「ダルいのきたな」みたいな反応する人もいるんで、そういうときはもう即切り上げて。
ちょっと「お、面白そう」って話聞いてくれそうな人だったら長めに話すみたいな感じでやってたっすね。
コレクションみたいな感じで名刺が溜まってくんで達成感がありました。
「この通りは制覇した」みたいな感じで、楽しかったですね。
―ここって家賃いくらなんですか?
太田:税込みで7万7000円ですね。
―居抜きでそれは安いですね。
太田:冷蔵庫もグラスも灰皿も全部あったんで。まあ、お店スターターキットみたいなもんだと思って。
なんかテナントにありがちな保証金もなく。礼金も1か月、敷金もないみたいな。超いいじゃんと思って。
―店の名前はどうやって決めたんですか?
太田:飲食店の許可を申請する前日に、紙にバーって書き出してたんですけど、決まんなくて全然。
まあでも、とりあえず明日申請行かなきゃだしと思って行って。
で、営業許可の用紙書いて、店名決まんないなーと思って、空白のまま出してたんですよ。
そしたら当たり前なんですけど、「いや、屋号入れてください」って言われて。
あー、えー、うわ、あー……
「デカい穴」
って書いた、みたいな。
―え、そのデカい穴案はそもそも前日の段階であったんですか?
太田:僕、前掃除したら紙が出てきて見たんですけど……書いてないんですよ、別に。
だから説明あんまできんくて。でも多分、その案出してるときに「穴場」的なのがいいなって思ってたんで。
前日にブレストして、それでグチャグチャになって……結局それでシュッとまとまったんかなって。
穴場って狭いイメージじゃないですか。
カウンター6席だけの隠れ家で細い路地の奥、みたいな。
でも狭かったら人あんま来ないじゃんと思って。
穴場だったらデカい方がいい。
―立地についてはどう思いますか?
みんな「遠い」って言うんで、千本鞍馬口って場所自体が京都の中は穴場っぽいのかなとは思いますね。
立地がちょっといいなって思ってたのは、立命、佛大、大谷があって、ちょっと行ったら同志社、京産もあるし。意外と大学の真ん中にあることですね。
スーパーも近かったんで、買い出しもサボり放題で、立地めっちゃよかったです。
―みんな、どういう経緯で知るんですかね?
太田:人づてですね基本的に。Twitterもちょこちょこ。イベントで来てくれた人が気に入ってくれて、それでっていう。
5パーセントぐらいフラッと来てくれる人もいるんですけど、ごくわずかですね。
屋根があればそれでよかった。
―今回、閉店に至った経緯を教えてください。2年ぐらいやってましたよね。
太田: 2年と5ヶ月ですね。
今年の3月に大学を卒業したんですけど、それまでは、俺はずっと京都にいて、やってくぞと思ってたんですけど。
卒業した途端に、別にキャンパスまでは通う必要もないし、 京都いる意味あんまないなみたいな、なんかもっといろんなとこ行きたいなみたいなことを思っちゃって。
他の人に投げてやってもらおうみたいな。やっぱ場所が残ってたら人が集まって、やっぱそれって僕はすごいいいことだなって思ってたんで。
その相談を大家さんにしたら、別の人が店長やる形式だったら、オーナーである僕がいつでもなんかあったときに、ここに来れるような状態じゃないと実質又貸しだからダメだって言われて。
じゃあ僕が一旦解約して、新たな2代目店長さんとの契約でお願いしますって言ったんですけど、 やっぱ再契約ってなったときに「条件を変えるわ」みたいな感じで、家賃3万アップと、あと保証金半年分と、あと定期借家にしてって言われて。
で、大家さんとも交渉してたんですけど、「いや2階は倉庫で使うだけだし、別に借りたくないんだったら出ていけば」みたいな感じで。とりつく島なくて。
僕が京都に残り続けるか店閉めるかの2択になったときに、まあ、しゃあないかと思って店閉めることにしたっていう経緯ですね。
まあ「契約がこじれて」みたいな説明はしてるんですけど、まあでも実質的に僕は京都出たいから閉めるみたいなところではあるんですよね、本質。
―それにしても家賃3万アップっていうのは、どういう心境の変化だったんですかね。
太田:たぶん大家さんもいろんな人と話してるうちに、お前それは安すぎだよとか、保証金取れるとか、いろいろ言われたんだろうなっていう。
―元々が好条件すぎたわけですね。この2年5か月の間はどんな感じだったんですか?
太田:平和に、みんな楽しく話して。人同士が仲良くなって。
普通によくあるバーの感じになったんで。それが楽しかったですね。
あと、イベントやってくれる人もちょこちょこ出てくれて、30人集まるイベントをやってくれたりとか。
そうやって人がわんさか集まって、すし詰めになればなるほど、僕はテンションが上がるので。すごい嬉しかったですね。ぎゅうぎゅうになって。
―平穏だったんですねー。
太田:しいて言うなら、「臭いものを食べる会」っていうのをTwitterで告知してたら、記名なしの紙が投函されていて。
言ってること正しいんだけど、文責ないんだみたいな。
円満にね、退去したいと思ってますけどね。
平穏って言いましたけど、最後にゴチャつくかも。
―最後に、これからお店を始める人にアドバイスをお願いします。
太田:なんだろう。物件選びは妥協しない方がいい……みたいな。
僕も早くお店をやりたくて、これ借りちゃおうかな、みたいなところも何個かあった。
もう借りる寸前までいったところもあったんですけど。
条件もいいし、たとえば駅も近いし、悪くないんだけどなんかこうピンとこないなって思って二の足踏んでたときにここ見つかったんで。
やっぱりねえ、お店って多分始めたらそう簡単にはやめられないんで。はやる気持ちはあると思うんですが、ピンとくるまでは頑張って探すのがいいんじゃないかなーっていうのは思いましたね。
運営に関してとかは、僕はテキトーすぎて何も言えないんで。
僕は本当にここをやるたびに、妥協せず選んでよかったなってのはすげえ思ったんで。
運営はサントリーもそうだけど、お客さんが酒の作り方教えてくれたりとか、厨房を改造してくれたりとか、「オペレーションこの方が楽ですよ」みたいな。
すごい他力本願ですがまあ、やってくのは人に任せたらなんとかなるんで。最初の箱が肝なんで、そこ妥協しないのが一番いいんじゃないかなあ。
―そういえば、このインタビューが出るのが6月30日金曜日の予定なんですけど、残り4日間のPRはありますか。
太田:2日は持ち込み企画で「ホールケーキを食う会」っていう、ただみんなホールケーキを食うっていうシンプルなイベントがあって。
で、4日はがらんどうにするんで、全部。
物がめちゃくちゃ多いところは、この店の売りだったんですが、4日は逆に何もないのが見られるっていう。
1日、3日も一応営業はするんですけど特になんかイベントがあるわけではなく。
ただまあ、もうほぼ店の体裁ないんで、公園みたいなもんだと思って来てくれたらなって思いますね。
デカい穴
営業時間:18時半開店、23時半閉店。
所在地: 〒603-8225 京都府京都市北区紫野南舟岡町 85-2 2階
デカい穴閉店まであと4日!!
急げ!!!
乗るしかない、このデカい波に。
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