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2024.08.10

白川今出川で『きっかけ』と出会う。KOFUKU book & daily store 佐藤夕伽子さんインタビュー

今井壮太

たくさんの京大生や芸大生が下宿している白川今出川。

学生街として栄えてきた歴史を持つ一方で、

昨年から個人経営店の開業ラッシュが起きており、

BRUTUSに取り上げられ、京都市内で話題のスポットとなっている。

今回インタビューさせて頂いたのは、この地域でオープンしたお店。

訪ねると、深いこだわりを持つ店主と心地のいい空間があった。

―――

豊かさとはなんだろう。お金だろうか、教養だろうか。

もちろん唯一の答えは存在しない。だが、既成の価値観が揺らぐ現代だからこそ、日々の生活を心地良いものにしたいという姿勢と、その実践を支える知識と道具に、目を向けるべきではないか。

インタビューと構成:今井壮太

 

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今回ご紹介するのは、2024年春に開業された「KOFUKU book & daily store」

 

今回ご紹介するのは、弊社が仲介と施工で関わり、2024年春に開業された「KOFUKU book & daily store」。

 

BAR 電球が入居するマリアハイツの2階では、経験豊かなオーナー様の厳選した料理本を中心とした書籍や食品・日用品と出会える。

お店のこと

「KOFUKU book & daily store」の佐藤夕伽子(ゆかこ)さん

 

ー夕伽子さん、本日はよろしくお願いします!

よろしくお願いします。

ー開店されて、反響はいかがでしょうか。

良い感じですよ。お客様は来てくれるだろうかと思っていましたが、毎日少しずつお越しくださいます。

ーそうですか!

知り合いだけじゃなくて、たまたま見つけてという方も。ここは2階にあるので、上がりにくいだろうなぁと思っていたのですが。

写真の看板は夕伽子さんのご友人の「furokudesign」さんが作成されました。
ショップカードや窓のロゴも手掛けていらっしゃいます。

 

ーまずはお店のことを伺いたいです。「KOFUKU book & daily store」はどのようなコンセプトをお持ちなのでしょうか。

「何かの気づきやきっかけと出会う場所」を作りたいと考えています。

ー「何か」というのは?

ここは食と生活に関する本が多く並んでいるので、例えば、調味料の新しい使い方を発見したり、食品と雑貨もちょっと置いているので、新しい興味へのきっかけが見つかったらと。

食と生活に関する本

ベトナムのお米用の袋をリサイクルした小物

土山人のそば茶、きな粉、そば粉

陶山商店の乾物と
ナンリーショップのエルダーフラワーのコーディアルシロップ

 

本以外の品物は、前の店からご縁の続いているものや、知り合いの作品を扱っています。

ー珍しい品物ばかり!新しい世界への扉が開けそうです。

物だけではなくて、例えば偶然お店を訪れたお客様どうしが出会って新しい関係が生まれたり、何かの企画が始まるきっかけになるような、そんな店にしたいです。

ーお店のInstagramを拝見していると、実際にそういった出会いが起きているみたいですね!

そうなんです。

ー投稿を見て、イマイは勝手に心がぽかぽかしています。

 

Instagramのアカウントはこちら
営業情報、入荷本、お付き合いのあるお店の情報などを発信されています。

 

本については、コレクション的な、希少なものは扱っていません。

ーどうしてでしょうか?

掘り下げた本屋ではなく、本を「daily use(日常的に使用)」してほしい。だから、食材や器と同じように、身の回りに置いて使える本を選ぶようにしています。

ここにある本は、もしかすると大型書店に全部あるかもしれないけど、大量の本の中から自分に合う本や好みの本を見つけだすのは、なかなか難しいんです。偏りはあるかもしれないけれど、選んで組み立てた本棚からは見つけやすかったりする。「なにかの入口になるような本」を見つけてもらえたら、と思っています。

ー素敵です。「料理本」「キッチン」のような言葉が店名に付いていないこともお店に入りやすくていいな、と思いました。お客さんにフィルターをかけないで、みんなが楽しめる空間作りをされているのかなって。

 

−そういえば、「KOFUKU」という店名にはどのような由来があるのでしょうか?

うちの母方の祖母が「丸福」という呉服屋を営んでいました。今はもうないのですが、いつか自分がお店を開くならば、福(FUKU)の文字を頂いて、小さな福という思いを込めて「KOFUKU(コフク)」にしようと考えていたんです。

夕伽子さんのこと

ー開業されるまでの歩みを知りたいです。はじめに、本との原体験を覚えていますか。

幼稚園の頃に、一人で歩いて行ける近所に図書館の分室があって、毎日のように通っていました。絵本を読んだり、司書さんとお喋りする時間が楽しかったんです。あと、母親が『暮しの手帖』や『家庭画報』などを見ていて、難しい字が読めない頃、料理記事の写真などをみるのが大好きでした。

ー幼少期から本に馴染んでいて、料理本にも出会っていたんですね。それがきっかけで書店員に?

学生時代から「本に関わる仕事がしたい」と考えていましたが、当時は書店勤務は頭になくて。たくさん出版社を受けましたが、最終的には印刷会社に就職しました。

ーその会社ではどんなお仕事をされていたのですか?

出版社担当の営業職をしていました。

営業!?

はい。

大変な役職じゃないですか!(不動産の営業でひぃひぃ言ってるイマイは、つい声が大きくなりました)。それに、昔は今よりもずっと男性優位な役職だったのでは?

担当した会社が情報誌の出版社だったんです。営業先は女性が多かったので、特にストレスはありませんでした。

ー職場によって違うんですね。

でも、昔は労働基準法なんて機能していなかったので、たくさん働きましたよ。終電で帰って始発で行く、家は眠るだけの場所。

ーひえぇ…

そんな生活を1年半くらい続けていたら、体調を崩してしまって、それで退職しました。回復してからは、前職のご縁で「ぴあ株式会社」に中途入社しました。ここでは8年働いたかな。編集部だったので、外部スタッフと打ち合わせして、内容を割り振ったり。何日にあそこで取材してもらって、カメラマンはあの人に依頼して…。全体を統括しながら、スケジュールを組んで進行していました。

参考記事:かつて、「ぴあ」という雑誌があった。

ーとても面白そうですが、簡単な業務じゃないですね。

ここで、前職の知識が役に立ったんです。

ーといいますと?

印刷についてよく知らないと、本の編集は進めにくいんです。例えば、文字を修正したいと思っても、写真の上に載っている文字だったら簡単にはできない。この部分の修正はどの段階まで可能なのかといった技術的な問題を、私は前職のおかげで次の工程を把握した上で進めることが可能でした。編集部では印刷工程の詳細が認知されていなかったので、みんなにそれを伝えることもしたり。

ー大活躍ですね!

この仕事も忙しかったけれど、私の20代はまだバブルと呼ばれる頃だったので、必死に働くだけじゃなくて、同じくらい必死に遊びました。そこでいろいろな方々と出会って話をして、仕事以外の経験の価値を知ることもできました。今も交流が続いている方々もいらっしゃいます。

ー日本中にエネルギーが満ちていた頃ですね。いろいろな人と出会うことは、現代でもとても大事だと思います。

当時の職場は大阪だったんですが、結婚を機に、左京区に引っ越しました。この不規則な仕事をしながらの子育てはさすがに無理があるということで、出産を機に退職して。

ーそうして左京区生活が始まったんですね。

はい。最初は子育てに専念する、専業主婦でした。息子が2人いるのですが、下の子が小学校に上がったタイミングで、短い勤務時間の仕事からはじめようと思い、洋菓子メーカーの販売促進部に入りました。あと同時期に、産休に入った友達の代わりにカフェのお手伝いなど。

ーついに「食」が。

これが機で飲食に携わることは楽しいなと思ったんです。でも、当時はそう思っただけで、何か始めようとは思っていませんでした。

ーそういえば、書店員としてのキャリアはこれからですね。

はい。子供が中学生と高校生の頃に、私の地元に大型書店ができるってことを知りました。立ち上げから関われたら面白いだろうと思っていたら、新聞の一面広告で募集告知が掲載されたんです。要項を読むと、各分野ごと(文学・雑誌・絵本など)に採用する・書店員としての経験は問わない・これまでの経験を担当分野に活かせるような人を求む、ってことが書いてあって「これだ!」と。

ードンピシャリですね!

応募したら、運の良いことに料理本のコーナーで採用になりました。それがオープンの8カ月くらい前でした。それからはずっと研修。本や雑貨の流通やディスプレイについてみっちり講義を受けたり、代官山で実地研修があったり…とてもハードでしたが、そこで書店運営のイロハが身につきました。今でも役に立っています。

ー他にはどんなスタッフがいらっしゃいましたか?

例えば、元保育士さんが絵本コーナーを担当していたり。

ー最強ですね。

何歳のこういうお子さんにはこの絵本が良いって、豊富な経験からオススメしていました。

ー夕伽子さんは、この書店では何年勤務されたんですか?

約3年です。当時は私1人で子供2人を育てなければならなかったので普通は辞めない方がいいんですが。本または食に関わる仕事をまた探そうと決めました。

ーそうですか

でも、退職後に緊急入院してしまって。

ーななんと。

それ以降は体力が完全には戻らなくて、どうしようかと思いながら、とりあえず週3日程度で働いていました。その後「本と野菜のお店を新しく始めるから、立ち上げに協力して欲しい」って声をかけていただきました。

ー2度目の立ち上げ経験ですね。

ラインナップは食に特化したいとのことで、当時のスタッフで書店立ち上げ経験があるのは私だけだったのです。

ー夕伽子さんが不可欠じゃないですか。

約2500冊をひとりで選ぶことは、貴重な経験でしたね。

ー2500冊…。

ちなみにこの店には約600冊の本があります。

ー600冊…(どちらにせよスゴイ)。

テナント選びと左京区のこと

ーお店の開業はいつから考えていましたか?

数年前から考えていましたが、子供の学費を払わなくてはならないので、なかなか踏み出せないでいました。

ーそうですか。

子供が大学を卒業して就職したタイミングで、今年からテナントを探し出しました。什器や本はいつかの開業に向けて用意していたので、テナントが決まってから、本の値付け作業などを含めて1か月半ほどの準備期間でした。

ー子育て、本当にお疲れ様でした。そして、そこから開業に至るまでがめっちゃ早いです。これまでの立ち上げ経験が活きていますね。ちなみに、こちらのテナントを選んだ理由はなんでしょうか。

1つ、好きなところは・・・

ーなんでしょうか?

借景がいいんです。

 

ー開放的!

比叡山まで見えます。北向きで直射日光が入らないから、明るいけど本は日焼けせずに済みます。なので即決しました。他のテナントは見てないんです。

ー本屋にうってつけの場所だったんですね。でも、すごい決断力です。そもそも、地元ではない左京区を選んだ理由はなんでしょうか?

子育てをしていた25年間は左京区に住んでいたので、知り合いも好きな店も多いんです。初めての店を出すなら左京区がいいなと考えていました。

ーなるほど。

 

取材中にご来店されたお二人。ママ友時代から20年以上の交流。
(掲載承諾済)

あと、お客様に「なにかでこの店を知ってくださったのですか」と伺うと、近くのお店の皆さんが「最近こんな本屋できましたよ」って紹介してくださっているようで。ありがたいです。

ー良い地域ですね。

この温かさも、左京区の好きなところです。

(左京区の個人経営店が集まって生まれた「左京ワンダーランド」)

ーお店のコンセプトは「何かの気づき・きっかけが見つかる場所」であると最初に伺いましたが、夕伽子さんの豊かな経験と出会いがあるからこそ、この店が誕生して、実際にそういう場所になっているんだ、と感じました。奇跡であると同時に必然でもある、というか。

仕事も子育ても入院も含めて、すべての要素があって今があるんだと感じています。もし若い頃に店を開いても、今の形にはならないだろうなと。ただ本や雑貨を売り買いするだけではなくて、お客様が店に入ってから、見送るまで、全てに意味があって、繋がっています。お釣りを渡すことも含めて、全てのことが人と人とのやり取りです。そう考えて「KOFUKU book & daily store」を営業しています。

選書してもらおう

-では。突然ですが、選書をして頂けますか?

いいですよ(顔つきが変わる)。

-参ります!

・大学生
・主食はファストフードとカップ麺
・自炊はした方がいいよな~とぼんやり思ってるが、経験値ゼロ
・たまたまお店にやってきた

という条件でお願いします。いわゆる限界男子大学生です。

(ササッ)

※店頭在庫がない場合があります

この2冊はどうですか?

ー即決ですね。15分で本格インドカレーができるんですか…?

カレーは「煮込む」イメージが強いですが、「スパイスを炒める」と考えることであっという間にできるんです。

ーへえ、お手軽!もう1冊のおつまみ本は、表紙がえだまめというのがいいですね。初心者でも手が伸びます。

 

仲介・施工を担当した弊社社員(HOSOYAN)と談笑。

HOSOYANの赤ちゃんの写真をご覧いただく。

イマイはかわいい装丁の本をみっけ。Suicaさかざきちはるさん。

 

-最後に、今後の展望はありますか?

ここで経験を積んでから、左京区内で、飲食も兼ねた店をしたいです。そして、鎌倉にも店を出せたら。

-鎌倉!良いところですよね。

京都と鎌倉で二拠点生活をしたいんです。

-聞いているだけでワクワクしてきました。実現させましょう!

柔らかで心地いい雰囲気の「KOFUKU book & daily store」。その裏側には、豊かな経験・出会いと確かなこだわりがありました。あなたも、ぜひお店に飛び込んでください。何かのきっかけと出会えるかもしれません。

 

弊社事務所より

 

お店情報

店名:KOFUKU book & daily store

所在地:〒606-8417 京都府京都市左京区浄土寺西田町81マリアハイツ 201

営業時間:不定休11時~17時(Instagramをご確認ください)

📚Instagram

🦐&Premium7月号SAVVY8月号anan京都特集にも本店が掲載されています。

 

お問合せはShuJu不動産まで。

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今井壮太

ShuJu不動産のルーキー担当 現役京大生という看板を背負い、日本全国を飛び回る26歳。吉田山よりも高く、賀茂川よりも深い左京区への愛情からShuJu不動産に参加した。『落語と農業のことばかり考えていたら、同級生が大学院まで卒業してたんすよね。でも、僕は京都に尽くすこと決めたんで、問題ないっす』と振り切れた笑顔を浮かべた。

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