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2023.08.25

表現者のオルタナティブスペースyuge コニシムツキさんインタビュー

Horiuchi

yuge-exterior

 

岡崎エリア、東山駅から徒歩2分の路地奥。

一見なんの変哲もない一軒家に、丸い看板が目に入ってくる。

――昨年、下鴨から移転してきたオルタナティブスペースyuge。

出迎えてくれた一人の男に連れられて先へ進むと、

ちょうどよく誂えられた白い壁の空間が広がっていた。

これからここで、なにができるだろう。なにが生まれるのだろう。

インタビュー、構成:堀内翔平

 

 自分のスペースを始めたいお客様にむけて、ShuJu不動産では、自身の通うオススメの場所を紹介していきます!!
今回は、美術展の企画、作品制作、文章の執筆等、多彩な活動を展開しつつyugeを運営されているコニシムツキさんをインタビューします。

 


 

 

yugeを始めた理由——制作者の場所として

yuge-interview

堀内:コニシさんがyugeを始めるまでの来歴を教えてもらえますか。

 

コニシ:そうですね……僕の実家は名古屋にあるんですけど割と転勤族で。小中学生時代を名古屋で長いこと過ごしてたんですけど、しょっちゅう引っ越しがあったので、名古屋に居座って高校進学する必要もないなと思って。

 

そのとき偶然NHKだったかで、砂澤ビッキっていうアイヌの彫刻家の特集をやっていたんです。その彫刻家が最後にアトリエを置いた音威子府(おといねっぷ)っていう北海道の村に、村おこしの一環でビッキの土地として美術とか木工芸を教える高校がありますよっていうのをやっていて。そこに行きたいと思って進学することになって実家を離れて。全寮制のところだったんですけど1学年につき1クラス40人。全校生徒で120人ぐらいのところでした。

 

そこで、ものづくりとか美術とかの面白さにどっぷりとハマっていって。当時僕は伝統工芸とかに興味を惹かれていたので。家具とかの制作よりも欄間を彫ったりとか和菓子の木型であったりとか。

 

 

堀内:へぇー、それで大学は京都に行ったんですね。

 

コニシ:そうですね。ルーツ自体は伝統工芸に対する感動で、京都に行くぞとはなったんですけど、勉強していったり作っていったりしていると美術全般にどんどん関心も湧いていって。

 

ここで作るものを絞りすぎずに、美術全体の勉強をしていろんなものが作れる環境に行こうと思って京都造形大に進学したんです。
総合造形っていうコースで、彫刻とか立体造形、現代美術全般みたいな学科なんですけど、そこで彫刻を作ったりいろいろしてたんです。

 

 

こうやってたどっていくとなんでyugeをやることになったのか……繋がってるのか、繋がってないのかよくわかんない気もするんですけど(笑)

 

でも、転勤族であったりとか、小中の間でも名古屋市内で引っ越したりとかしていて人間関係が節目節目でぶつ切りになったりとか。どっかに定住するというか、ふるさととか幼馴染みたいな存在がはっきりといない状態が今まで続いてきたので、なんか割と「自分の場所」みたいなものに対する憧れはあったのかもしれない。

そのうえで、寮生活とかをしていたときの先輩後輩とか。寮のルールもあるんですけど、寮の中の制作学習室みたいなところで先輩とか後輩とかと一緒に制作について話をしたりとか、お互いモチベ上げていったり、全然関係ない話をして楽しんでみたいな。

 

 

yuge-main space「作ってる人たち同士のコミュニティみたいなものが心地良かった」

 

シェアアトリエとか発表の場とかそういった場所は欲しいなみたいな。いつかそういう場所が作れたらなみたいなことは、割と高校の頃からぼんやりあったのかなと思います。

 

 

作家ファーストの場所を目指して

堀内:たしかにアトリエにせよギャラリーにせよ、「貸し」でやる場合が多いですよね。

 

コニシ:学生作家がギャラリーを借りるってなったときに河原町とかだと、土日で普通に8万とか、10万超えたりするようなところもあったりとか。学生作家ってバイトして、家賃とか学費とかのために頑張らないといけない人もいたり、制作費もかかるし。

そういった中で1週間丸々やるってなったら何十万だ、みたいな。でもあんまり人がたくさん来なさそうな安い場所を借りてもそれって意味あるんだろうかみたいな。

 

自分が美術系の大学にいて制作もしていたから外で展示するってなったらゼミ展みたいなので学校が借りてくれて外でやったりとかいうのも知っているんですけど、自分が見る側だったら、知らない大学の知らない学生の知らない教授のゼミ展って、なかなかふらっと行くには知らなさすぎるじゃないですか。

 

堀内:そうですね。僕も美大の卒展とかはたまに行きますが……

コニシ:使う側も来る側もハードルが高い、踏み入れづらい状況になってるのがもどかしかったんですよね。

なので、yuge作ったときはできるだけ学生とかも手が伸ばせる現実的な価格にして。

 

最初からノウハウがあったわけじゃないので、できるだけ展示のときは僕も一緒に相談しながら。学生作家に使いやすいよう予定してたんで、やっぱ学生作家の割合も高くて、歳も近い作家さんが多かったです。

 

 

yuge-space view「作家ファーストというか……作家さんがやりたいことを優先できる場所にしたいとは思っていて」

 

きっと僕自身も制作していたからこそ分かる「これをこうしたらどう?」とか、そういった相談もできたのかなってのは思いますね。

 

なかなか難しいことではあるんですけど、制作の意図をこっちもちゃんと把握して、場所を使ってもらえるようにやり取りをしていくだとか。なので「水は使っていいですか」とか、「火も使っていいですか」とか。「飲食物を使ったパフォーマンスをしていいですか」とかそういう相談も受けて。

 

極力「やりましょう」っていうかたちで、火を使うのであれば「じゃあこういう形で対策しておきましょう」だとか。水も「じゃあちょっとここで水流せるか試してみましょうか」みたいなのを、作家さんとやってみたりとか。

 

それこそ、堀内さんもご存じの九月さんの軟禁コントも24時間開けっぱなしみたいなことはそれまでやったことなかったんですけど。まあ、中に九月さんがいるのであれば不審者の侵入なんて発生するわけがないっていう。

入場料だなんだのの管理さえしっかりしておけば、「魔除けが24時間居座ってる」みたいな状況に等しいと思うんで、じゃあできるんじゃないのっていう。やってみて、結果それがありがたいことにウケて、定番化して。

下鴨時代のyugeでの九月さんによる公演

 

まあ作家さんも、長いことやってたり有名な作家さんとかディレクターがついてたりするギャラリーとか、そういったところの方がいろんなメリットがそれぞれの場所ごとにあると思うんですけど。コレクターさんとかキュレーターの方が足を運んでくれて宣伝してくれたりみたいな。

でも、ウチみたいな新しくできた場所はお客さんを作るところから始めないといけないので、作家さんに声かけても最初はほとんどがやっぱりその作家さんのお客さんに来てもらってる状態みたいなのがしばらく続くわけなんで。

 

新しく場所を作って何かをするのであれば、できるだけ他の場所ではあまりできないことも積極的に受け入れて、作家さんと一緒に試行錯誤していけるような動きをしようっていうのはずっと思っています。

 

発掘/発信の場としてのyuge

堀内:何年かやっていると、展示される作家さん固有のお客さんだけじゃなくて、スペース自体のお客さんとか、作家さん同士のシナジーとかも生まれたりしていった感じなんですかね。

 

コニシ:そうですね。やっぱりまださすがに、大きな場所とは比べ物にならないなって感じることの方が圧倒的に多いんですけど。それでも前の展示にも来てくださってた方が「作家さんは知らなかったけどちょっと気になったし来たよ」っていう方も現れ始めたりとか。

 

移転に合わせて来てくれたりっていう方も結構いたので。クラウドファンディングのときも具体的な数字としていろんな方がメッセージ送ってくれたり支援をしてくださったりとかっていうので「こんなにいてくれたんだな」っていうのを実感したのはありますね。

 

あとまあ正直ウチは、よくあるギャラリーとかの……コレクターとかバイヤーさんみたいなそういった客層っていうよりも、作家さんからの支援であったりとかもすごく多くて。

 

僕は、そこもすごい嬉しいなって思ってまして。作家さんにとって面白い場所にしたいなと思っていたんで。作家さんが他の作家さんの展示を見に来て、そこでコミュニケーションが生まれたりであったりとか。

 

逆にyugeの方から企画として作家さん同士の二人展を開いて、二人の対談インタビューみたいなのをさせていただいたりとかもしましたし、そのあたりの作家さんとの「近さ」みたいなものをいい形で今後も築けていけたらなって思います。

 

FLAT OUT!!! 作家インタビュー 勝木有香 × 颯ヒロセより

 

堀内:yugeっていう名前も含めて、場所のコンセプトっていうのはある感じなんですかね?

 

コニシ:yugeも最初は語感の良さで、いろいろな案の中で出てきた言葉ではあるんですけど、やりたいこととかを固めていくとどんどんしっくりきていった名前で。

 

若手の作家であったりとか、まだ外に発信されてない作家たちがここで集まって、面白い場所になっていけばいいよねっていう話を立ち上げのときにしていたので。言ったらホットスポットのような。

まだ水面下で息を潜めている若手の作家であったりとか、未発掘の作家たちが集まって活動することで、熱気が集まって「ここにいるぞ」と狼煙(のろし)が上がるような。そんな発掘/発信の場所みたいなものになることを目指してyugeっていう名前になりましたね。

 

1人でまわし続けた下鴨時代。東山への移転

堀内:不動産屋としては家をどうやって見つけたのか気になります。

 

コニシ:前の下鴨のときはSUUMOに載っていて、でもすごい変な、ルームシェアできるスペースが2階にあって、1階は店舗スペースみたいになってる物件があるぞっていうのを友だちと見て、ここでちょっとなんかできるんじゃないかっていうので、普通に引っ越し先探すのと同じような発見の仕方で出会ったんですけど。

 

で、ルームシェアをしながらそのスペースを改装して、何かできる場所にしようっていうので始まった場所なんです。

 

でも、ルームシェアしていた友だちも卒業して東京に出たりとか。正直な話、モチベーションの差とかもあって結果的に下鴨のyugeっていうのは、僕1人で全部まわしていたんです。

 

ルームシェアする同居人は何年かごとに1、2回変わったりとかして、僕も大学を出て普通に会社員だったりとか、フリーで展示の企画を請け負う仕事に変わったりとかっていうのはあったんですけど。

やっぱりスペースだけじゃどうにも食っていくのは厳しいっていうので、いろんな仕事を掛け持って、外部で美術の仕事をしたりとかしながらyugeっていう場所を動かし続けてたんですけど。気づいたら5年経ってまして。

 

自分が住んでる場所兼スペースだったので「この物件を手放したらなんとか生活が楽になるか」とかいう環境でもなかったので、そのおかげもあって幸い5年続けることができたっていう気もするんですけど。

 

でも同時に、5年経ったけど、このスペースを続けるかどうかみたいなところをちょっと考えるべきだなっていうところにきまして。2020年から22年ぐらいに1人でスペースをまわし続けるっていうことが、めちゃくちゃしんどくなったんですよ。

 

いったん自分のスペースっていうものを畳んで、外部で展示の仕事をしたりとかいうのを集中して、お金も貯めて経済的な余裕を取り戻してからもう1回改めて場所を開くのもアリかなみたいなこと思ってたんですけど。

下鴨で展示とかパフォーマンスとかしてくださってた作家さんが連絡をくれたりとかして「なくしてしまうのが寂しい」という問題があって、センチメンタルな気分になりまして。

 

それでもこの場所を残していくんだったらどうしようかっていうのを考えた結果、1人でやるのがしんどかったから、他の分野とかで頼れるメンバーを増やして、チーム運営の場所としてやりたいと。

下鴨のときは建物の改装を学生たちが少ない小遣い集めていわゆるDIYみたいな形でやってたんで。そうじゃなくて、もっと綺麗で、しっかりと施工したアクセスのいい場所に改めてリニューアルするような形で続けようっていうのでクラウドファンディングとかさせていただいたりとかして、いろんな方の協力があって、今のこの東山に移転ができたんです。

それもメンバーが1人じゃなくなった、増えたからできたことですね。1人でもし移転とかそういうのやってたら、多分もっと期間がかかっていたと思うんで。

 

東山の物件はルームマーケットに掲載されていた、木工加工の作業場だったという

 

信頼できるメンバーたち

堀内:メンバーはどういう形で集まったんですか。

 

コニシ:一人は松原元(はじめ)さんっていう建築をやってる方で。

僕は自分で彫刻作品とか現代美術の作品とかを制作したり、そういった展示の企画したり、両方で活動してるんですが、その方は僕の展示の空間設計のお仕事をお願いしたことが過去にあったりとか、KYOTOGRAPHIEとかみたいなアートイベントでの仕事先で設営のときとかに会ったりとかっていう面識があったんです。

その方も作家活動してるんですけど、yugeに興味を持ってくれて一緒に仕事をしたりとか、展示のことを手伝っていただいたりとかもしていたんで、そのあたりの信頼もあって。

あとやっぱり作家がなんかを作るっていうのと、施工であったりとかそういう展示をやるときの什器とか棚とか壁を作ったりとかってまた全然違うんで、そのあたりの専門でパッと動ける人がいるのはすごい頼もしいなって思って松原さんに声をかけたんです。

 

 

デザイナー兼音楽家として活動してる齋藤悠麻くんっていうメンバーもいるんですけど、彼は同世代で、僕と音楽の趣味で知り合って、一緒にライブを行ったりするような友達なんです。

PA、音響の仕事とかちょっとした楽曲の制作であったりとか、デザイナーとしてフライヤーを作るであったりとか、いろいろやってるんですけど、 展示をやるってなったときにフライヤーデザインであったりとか、自主企画のときのデザインをどうするのかっていうところの方向性として、1人デザイナーがいたらすごい助かるなっていうのと、音楽系のイベントやちょっと音を出すようなイベントであったりとか、そういったことも、過去のイベントとか、ちょっと演劇をやったりとかいうのもあったので、そういったときの音関係とかそういったところも分かってるメンバーっていうのは欲しいなと思っていたので。

 

 

最後に福岡想さんという方。この方は京都で、フリーでカメラマンとかオペレーターをやってる方で。最近、生配信系のイベントとかで、複数のカメラをスイッチングしたりとか配線を考えたりとか照明を組んだりとか、そういった現場での撮影・配信時のオペレーションみたいなのを仕事でやってる方で、よくいろんな活動でご一緒して、僕も過去の制作で、アーカイブ撮影で協力していただいたりとかしたこともあって。

こういう場所をやっていくうえで、しっかりとちゃんとノウハウを持ってる人が撮影した映像とか写真が記録として残っているってのは大事なことだなと。そういったアーカイブであったりとか、イベント時のオペレーションに精通した方っていう。

 

本当にそれぞれ技術的な面であったりとか、それぞれの作家的な活動もあるんですけど、分野は違う4人で。僕が以前から個人的に付き合いがあって、かつ信頼できる人たち。

技術的な腕であったりとか、シンプルにこの人たちならしんどくない形で快適に進められるだろうなっていう信頼とかもあって声かけたっていう感じですね。

 

yuge-member

「1人でしんどかった僕が「助けてくれ」と声をかけた3人っていう、そんな形ですね」

 

移転の際の物件選び

堀内:なるほど。このスペースを探す際にも4人の意見を集約するの難しかったんじゃないかと思うんですがどうでしょう。ぶっちゃけこの場所でよかったんですか、というか。

 

コニシ:そうですね。他の物件、梅小路公園付近のとこ見に行ったりとか、太秦の方であったりとか。

 

いろいろ見に行きつつ、展示とかたまに舞台やらパフォーマンスとかのイベントとしての利用もあって、物販とかもあって、って思ったときに、「ここはちょっと厳しいよな」とか「現実的じゃないな」とか「ちょっと高すぎるな」とか、いろいろあったんですけど。

ここに決めたときは他のメンバー2人は用事があって来れなかったんですけど、いい広さでいいアクセス、東山駅からも近くて、ちょっと入り口が細い路地のシャッター入ったところにあるんで最初アレかもしんないですけど、看板を出しておけば「あそこだ」って発見してもらえるワクワク感もあるかなとか期待しつつ。

 

僕としては中に入って「ここがいいな」っていうすごいしっくりしていたんで、ちょっと他のメンバーに写真とかを送って。「めちゃくちゃいいねん」って話をしてたら、他のメンバーも、「もう、コニシくんがそんな気に入ってんのやったら、もうそこやろ」みたいな感じで言ってくれて。

 

まあ、ここも人気だったみたいで、けっこう掲載されてすぐに行ったんですけど、 お昼ぐらいに見に行って、不動産の方が「この場所、これ含めて今日全体で6件ぐらい内覧入ってますよ」みたいな話を聞いて。見事に踊らされているところもあるとは思うんですけど(笑)

 

 

堀内:家賃はどう配分しているんですか?

 

コニシ:家賃は9万円なんですが、最初のこの場所が決まって等分するってときは、3万、2万、2万、2万っていうので、僕がyugeを続けたいために言い出しっぺとして、っていうので3万出して他のメンバーは2万ずつっていうので、配分しようかってなってたんですけど、僕が去年あたり精神的に参ってしまって仕事ができないっていう状況になってしまい。

 

今、なんとか回復して活動も再開できているんですけど、その期間とかはメンバーに頼らせていただいて、そこは今僕が割ともたれかかっている状況にもなってしまってるので、立て直し中っていうところです。

 

 

堀内:そういう経緯があったんですね。しかし、このエリアでこの広さで9万円だったら、すごいいいような気はしますね。

 

コニシ:ちょっとここ逃したらなかなかこのアクセスの良さでこの広さというのは。あと壁とかね、いろいろ綺麗にはしたんですけども、もともとある程度は綺麗な場所だったんで。改装のときの手間とかも考えつつ物件はいろいろ見てたんで。

 

本当にここはちょうどいい手間で、ほどよく元の建物の気配もありつつ、何を入れても邪魔しないくらいの白い壁に張り替えることができて。ちょうどいい場所をタイミングよく見つけられたなって思います。

 

デカい、ザ・町家みたいなところは本当に広くて安かったりとかもするけども、そこを改装するってなったらだいぶ手かけないといけないし、もうすでにいろんなところでやってる町家ギャラリーみたいな、そういった風景になってしまうなっていうのもあったんで。

 

yuge-main space2

 

京都というまち――変なものも受け入れられるまち?

堀内:このインタビューは、京都の若い人が独自のコンセプトで面白い場所を展開しているのを紹介したいという思いでやっていますので、そういう「〝町家ギャラリー〟にはしたくない」的な話は心強い。

 

コニシ:京都は……yugeとして活動してるからなおさらすごく思うんですけど、 学生のまちとかも言われたりするし、美術系の大学もすごい多いじゃないですか。造形大(現・京都芸大)も嵯峨美も精華もあるし。他の専門系のとこでも、工繊とかで建築とかデザインとかやってるところとか、美術工芸大がこっちに来たりとか。京芸も移転して、中心部に来たりとかもするし、作家活動してる若い人がたくさんいるまちなんで。逆にそういう人たちが京都に残ってるなっていう印象もあるんで。

 

まあもちろん東京に住む人もいるんですけど、アトリエを構えたりとかちょっと変な店を開き始めたりとか、そういうことをし始めやすい場所だなっていうのをすごい思います。東京はもちろん土地の値段も全然違うし、場所を継続するのってたぶんとんでもなくハードルっていうか負担が違うと思うんですけど、京都は芸術系の学生が多いってだけじゃなくて、演劇サークルとか、ライブハウスとかがたくさんあったりとかいろんな……いわゆる「アート」と言われたときに連想される分野以外の創作活動とか全部内包される、そういった活動をしてる人たちが多いし、その分野もすごい広い土地だと思うんで。

 

かつ、これは喜ぶべきなのか嘆くべきなのかわかんないんですけど、「なにで生活をしてるんだこの人は」みたいな人がけっこう多いじゃないですか京都って(笑)

なにで食ってんだろう、でもなんか楽しそうにしてるな、みたいな人が多いっていう良いのか悪いのかよくわかんない安心感。そういった、土地の異様さみたいなものがあると思うんで。ある意味、そういった人たちの協力であったりとか、変なものが新しくできても受け入れてもらったりとかっていうのはすごくしやすいし、ちゃんとそれを面白がってもらえる場所だなって思います。

 

京都で老舗といったら何百年単位じゃないと認めてもらえないみたいな、排他的なイメージが外からはあると思いますし、実際、そういう歴史の側面もたぶんあると思うんですけど、祇園とか先斗町みたいな。

 

京都が全部そうかって言われたらそうじゃなくて。エリアごとの特色がきっと東京にもあるように、京都にもある。

 

 

堀内:そうですね。左京区とかの大学生街はむしろ新しいものをすごい呼び込みやすいなと思っています。

 

コニシ:学生のまちって循環も早いからあまり凝り固まらずに伝承されていく、場所が受け継がれていくペースが早いのかもしれないですね。

 

大学の4年間とか院を出てその後は別の土地に行くとか、もう次の人に任せるみたいな。そういう方もきっといるだろうしそういう場所もけっこう多いのかもしれないですね。

 

 

堀内:ただ、一部の人たちがそれこそ「なにで生きてるのかわからない人」になっていくような気がして。

 

コニシ:居座り続けてる人がだんだんその場所のドンみたいになっていく(笑)

 

堀内:左京区はちょっとヒッピー的な、そういうお店とかも結構ありますよね。

 

アパレルブランドやZINEのポップアップとして使われるケースも

 

これからのyuge——アーカイブ、メディアの横断

堀内:yugeをこれからどうしていきたいみたいなのはありますか?

 

コニシ:せっかく移転したのに僕がうまく動けなくなってだいぶブランクが空いちゃったりとかしたんですけど……やった企画とか展示とかのアーカイブをあげるウェブサイトを準備中です。yuge以外の京都の展示のレビューをそこに掲載したりとか。発掘/発信みたいな、yugeがやりたかったことの延長でもあるんで。

 

ギャラリーではなくて「オルタナティブスペース」っていう名前で続けてきてるのも、作品の売買をしたりとか、変にアートスペースみたいな仰々しいものにしたりするでもなく、場所としてのメディアみたいな方向性を目指していくことになるのかなっていうのは5年ぐらい続けて、移転して思っているところですね。

 

あとこれも「できたらいいな」くらいの構想でしかないんですけど、不定期でも冊子やマガジンみたいなものを実際に発行したいなと。作家さんのアーカイブであったりとかなにか漫画とかイラスト描いてる方、文章書いてる方とかを集めて、紙面としての冊子としてのメディアをなにかしら形にしたりとか。

 

そういった中の1つの拠点として、実際に足を運べる場所としてのメディアであるyugeという場所がここにあるみたいな。そういった展開の仕方ができたらすごく理想的だなとは思っていますね。

 

 

堀内:具体的な場所とウェブ上のメディアってヘタすると乖離しちゃう場合もありうると思うんですけど、そのへんはどうですか。

 

コニシ:場所をやってて思ったのが、「いま・ここ」でおこなわれているパワーみたいなものって、すごい代えがたいし面白いんですけど、会期が終わったらまた空っぽの元の風景に戻るんですよね。それでまたリセットされて、別の作品が入ってっていうのを、僕はずっと場所を管理する者として見てきて。場所が物理的に存在するからこその「もったいないな」っていう感覚もあるんですよね。

 

 

 

堀内:なるほど。それで、アーカイブっていう発想になるんですね。

 

コニシ:どこからでもアクセスできる入口をウェブ上に作るっていうのと、それをモノとして紙に残したりとか、そういう楽しみの方に展開したりとか。逆にウェブ媒体で活動しているものとかを見ていて「これがウェブにしかないの寂しいな」って思うこともあったりするんで。そこを行き来できるようにできたら楽しいだろうなっていう。

 

作品も、イラストみたいなものとかでも、Instagramとかに更新し続ける仕方もあるけど、実物を会場に展示したらそれを見たい人もいるし、その展示をすることで作家としてのなにかしらの達成であったりとか、課題が出てきたりとかもあるし。

 

「場所にしかないもの」が場所をやると見えてくるんで。その重大さと同時に「でもこれ場所にしか存在しないものなのか」っていう寂しさをどうにか保存したいみたいな気持ちもあり。

 

そこを両方ともしっかり補完し合えるようなメディアの横断みたいなものができたら発見してもらいやすくもなるし、作家さんへの入り口を増やしたいみたいなのも関わってきてるかもしれないですね。

 

でもやっぱりそこで、その作家さんの「SNSはコチラ」ってリンクを貼って案内して終了するところまでしかできないのは寂しいなって思うんです。

 

その作家さんの展示がここで行われますよっていうところまで引っ張ってくるとか、過去にこういうの行われてます、また今度展示にお呼びします、みたいな感じでそこまでしっかりと繋げられたら嬉しいなと思いますね。

 

 

堀内:そうですね。僕らも自分で取材して記事書いてる分、記事を読んだ人にその場所に行ってくれる人がいたら非常に良いことだなと。

 

yuge-feeyugeのレンタル料金。メールで連絡するのが確実とのこと

 

これから新しく場所を始める人へ——人の集まるスポットを見据えて

堀内:新しく場所を始めたい人にアドバイスはありますか?

 

コニシ:うーん……辛辣なことかもしんないですけど、「人を集める場所を作る力」と「人の集まるスポットを見つける力」ってけっこう別の能力だなということですかね。割とパッと見たときに似てるように見えがちだなって思うんですよ。

 

なので、1人で全てをやるのは絶対に無理だし、まあなんだかんだ下鴨のときも1人でまわしてたとは言ったものの、毎回いろんな方に協力していただいたりとか、もちろん作家さんにも協力してもらってるからこそ続けてこれた場所なんですけど。

 

人が集まるスポット、イベントであったりお店であったりとかそういうのを察知してそこに赴く力と、そういった場所を生み出す力っていうのは両方必要なものだし、それぞれがいるからムーブメントみたいなものが興ったりするんですけど。

 

堀内:場所を作る側の人の能力と、消費者としてのアンテナの高さみたいな話は別っていうことですかね。

 

コニシ:そうですね。そこをきちんと自分の中で使い分ける意識がないと、飲食店とかこういうスペースとかでも内輪のパーティ会場みたいになってしまう可能性みたいなのもあると思うし。それを目的にしてるならそれは全然いいんですけど。それを意図してないのにそうなってしまいそうなときってたぶんその2つの能力を混同してる状態だと思うんですよね。

 

外からやってくる人間ってのは、自分たちが思っている以上にきっと、自分たちに全く関心を強く持っていないし、すごい気まぐれだし。

 

意図をちゃんと持っていたとしても、案内の仕方まできちんと作らないとそもそも見てももらえない、辿り着いてもらえないみたいなことを、場所をゼロから始めてすごく思ったし、今でもすごく思い続けてることなんですけど。

ちょっとずつ内輪が外に外に広がって大きくなっていくっていうこともあるし、 全然その延長で、うちも少しずついろんな人に知ってもらえるようになっていったっていう側面も絶対あると思うんですけど。

 

だからこそ、少なくとも僕はうちのスペースで取り扱う内容、それは作家さんであったりとか、イベントであったりとか、物販であったりとか、演劇であったりとか、いろいろですけど、そのものに対してしっかり自分で向き合っているものというか、ちゃんと掴めているものを取り扱いたいなって思いますね。

 

なんとなく「こういうのがあったら、みんなこういうのを求めてるみたいだし、来るだろう」って思っても、やっぱり思ったより人が足を運んでくれる理由みたいなものって別のところにあったりとか。

 

そう思わせるものがなんなのかっていうのを自分で掴めてないとその再現とかもできないし。それ以上のことを提案したりとかも難しいから。

 

 

堀内:なるほど、貸しギャラリーのハードルの高さみたいな話を最初の方にしていましたけど、作家が自分でコンセプト決めてただ場所借りるだけみたいな話とは違って、貸す側が一緒に作っていくというか、いただいた企画に対して言えることがあったりとか、文章とかフライヤーとかそういうところで関われる可能性ってありますよね。

yugeさんは作家さんが持ってきた企画の勘所をしっかり押さえて、それをどう外へと開いていけるかを考えているのだなと思いました。

 

長時間のインタビュー、ありがとうございました。

 

yuge-entrance

 

2023年9月16日(土) 〜 11月12日(日)

奈良県の吉野町、下市町、下北山村にて開催される

MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館

にyugeさんが出展されます。

ぜひお越しください!

 

 

スペースの情報


スペース名:オルタナティブスペース yuge

所在地: 〒606-8345 京都府京都市左京区東門前町519−10

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Horiuchi

ShuJuの代表兼宅建士。京都大学総合人間学部を卒業し、修士、博士課程と順調に進学していくも、「俺は学問だけじゃなくて、シェアハウスに関わる全てのことに携わりたい」と宣言し、まさかの中退。不動産業に従事していたことから、そのまま宅地建物取引士を取得。 得意なことは社会学、契約関係、税金関係。『長い間、アカデミアに籍を置いてきました。これからは皆様のお住まいや不動産での資産形成にご協力していきたいです。私はお客様からの連絡をいつでもお待ちしています』とにこやかに語る。

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