2023.09.15
出町柳から織りなされる〝ドット絵〟のインディーゲームたち|room6・木村征史さんインタビュー
鴨川沿い、出町柳の地に佇む洋館・鴨柳アパートメント。
板張りの廊下を歩いた先にroom6(ルームシックス)の事務所はある。
ピクセルアートで彩られた、どこか懐かしさを覚えさせる趣。
プレイヤーをじっくりと惹きつける、ミステリアスな世界観。
他にはない独自の魅力を放つインディーゲーム。その制作現場に迫った。
インタビュー、構成:堀内翔平
今回は、京都市左京区の出町柳でインディーゲームの開発/パブリッシングをされているroom6の木村征史さんにインタビューします!
スマホアプリからゲームへ
堀内:起業をした最初の動機はなんだったんですか?
木村:もともと僕はプログラマーだったんですよね。
いわゆる業務系プログラマーっていうか、会社向けとかビジネス向けの、言うたら堅いアプリというか銀行向けのソフトウェアとかやってたんですけど、あんまり面白くないんですよ。
で、やってたときにiPhoneが発表になりまして。当時勤めていた会社の社長にうちもiPhoneのアプリを作るビジネスをやりませんかって提案したんですけど、即却下されて「うちは、そういうのはやらん」と。
それでスマートフォンのアプリをやりたいので独立して会社を作ったっていうのが最初のキッカケなんです。
ちょうどそのときに2人目の子どもができたりとかしてたんで、本当はiPhoneが出た2008年にすぐ前の会社辞めたかったんですけど、忙しかったのもあって、ちょっと遅れて2年経ってからぐらいで独立した感じですね。
堀内:でもスマホの普及を考えると、早い段階でアプリを作ってたんですね。ゲームを作り始めたキッカケはなんだったんですか?
木村:もともと僕の世代は、いわゆる就職氷河期の頃だったんですけど、 コンピュータの専門学校出て就職っていうときに、いくつかゲーム会社受けたんですよ。関西で言ったらカプコンとかSNKとかそういう会社を受けたんですけど、そのときは入れなかったんです。ゲームは子どもの頃からすごい好きやったんですけど。
ゲーム作りたいなっていう思いはそこで封印して、ひたすら仕事してたんです。最初はスマホのアプリを受注して細々とやってたんで、 ゲームを作ろうとは全く思ってなかったんですけど、スマートフォンでその頃、 ゲームを個人とか少人数でも作れるようなフレームワークっていうか、ゲームエンジンっていうのができてて。それを知って「作れるやん」と。
当時は3人で起業したんですけど、3人とかでも全然作れるっていうのを知りまして。それまで本当にゲームって何十人とかで作る、作るのがすごい難しいものっていうイメージやったんで。それで、仕事の傍らずっと作ってたみたいなのがキッカケですかね。
まあでも普通の、ゲームじゃないお仕事も、並行してやってたんですけど。7、8年ぐらい前からゲームメインに徐々に切り替えていって。ここ5年ぐらいはもう、ゲームで食べてるというような感じで。
今はスマートフォンのゲームも作ってますしSwitch向けのゲームとか、SteamでPC向けのゲームとかを作って売って。いわゆるインディーゲームっていうジャンルのゲームを作って売ってる会社に今はなっている感じですね。
あとゲームは開発だけじゃなくてパブリッシングって言って、いろんなゲーム開発者さんとかのゲームをroom6からリリースしているというような、パブリッシャーっていう仕事もやってる。そんな会社ですね、ざっくり言うと。
木村さんはもともと「グラディウス」や「沙羅曼蛇」のようなSTGや、「ドルアーガの塔」のような初期のRPGが好きだったとか
まあでも、最初の頃は本当全然お金にならないから、 本業の傍らみたいな感じでやっててですね。
ちゃんとビジネスというか、会社がやっていけるようになったのは本当に最近っていうか、ここ3、4年ぐらいの話です。
堀内:そういえばSteamって2014年ぐらいはあんまり見なかったですよね。
木村:Steamは10年前だと、特に日本ではあまり知名度はなくて。今みたいにいっぱいゲーム出てなかったんで、昔はSteam Greenlightというユーザー投票でゲームが選ばれないとリリースできなかったんですよ。多分5年ぐらい前から登録料を支払えばゲームを公開できるようになって。そこから爆発的にゲームの種類が増えて、これで売り上げも多分上がって日本でも知られるようになった。
room6のブランドイメージができるまで
堀内:作られてるコンテンツについても聞きたいです。レトロというか、ドット絵であったり2Dであったりみたいなイメージが強いんですけど、どういうコンセプトなんでしょうか。
木村:もともとドット絵がすごい好きだったわけではないんですけど、でも最初からドットのゲームは作ってた。なんでだろうな。
最初は作るの楽やと思ったんですけどね単純に。あと可愛らしいしっていう理由で。飾ってるやつとかああいうのもそうなんですけど。
この「アンリアルライフ」もピクセルアートのゲームですね。
ピクセルアートのゲームを扱い始めてからはそういうアートが好きな開発者さんとかが集まってきてくれて、ピクセルアートのゲームを扱うブランドみたいにはなってきましたね。
堀内:実際はドット絵だからって楽なわけでないというか、むしろ大変なことも多いんですかね。
木村:そうですね。ドット絵はコツがいるというか。 僕も自分で作れるわけじゃないですけど、けっこう特殊技能は要るような気もします。
変な感じに打っちゃうと野暮ったくなったりとか。色のセンスとかが必要だったりするので。
僕らが子どものときはドット絵とは言わず、全部がドット絵だったので。僕自身はあんまりレトロっていうイメージじゃなかったんですけど。昔のドット絵と今のってまた全然違うんで。
昔のドット絵は限られた色数しか使えなかったんですけど今はたくさんの色が使えます。ひとつのアート技法みたいに僕は感じてるんで。若い人だとレトロ感も感じつつ、おしゃれレトロというかそんなイメージなのかな。
堀内:ゲームの内容として、どういうコンセプトがあるのかも気になるところですね。
木村:うちは基本的には世界観を重視して、その中でストーリーや音楽などの要素も大事にした作品を主に扱っています。
なので、 カジュアルアクションとかゴリゴリ人を斬っていくみたいのはあんまなくて、どっちかっていうと、しっとりしたストーリーのやつが多いのはカラーとしてはありますね。3年前から「ヨカゼ」(外部リンク)という、世界観を重視したゲームを集めている「レーベル」を立ち上げたんです。
「アンリアルライフ」を第1号として出して、そこから近いスタイルを持つゲームが増えてきて。
2020年5月にリリースされた「アンリアルライフ」のプレイ画面
堀内:たしかにゲーム会社って開発元と発売元が分かれているとかだけじゃなくて、自社内でレーベル名みたいなのを設定しているパターンってありますよね。
木村:ですね。ヨカゼでようやく少しずつ 覚えられてきつつあるかなみたいな感じでやってますけどね。好きな人は知ってるみたいな感じ。
まだまだこれからですけどね。まあ大手とは戦えないですし、独自の カラーとブランドを作らないと忘れ去られそうなんで。
なので、「箱推し」してもらえるようにやってるみたいな感じ。
インディーゲームファンも増えてきたんで、その中ではそれなりにはなんとなく定着してきたかな、というような。
堀内:ゲーム実況文化が盛り上がってますよね。特に最近だとVTuberがよくゲーム実況してるイメージです。
木村:ウチのゲームを実況してくれるのはVTuberさんが結構多いですね。VTuberさん文化とちょっと合うものがあるのかもしれない。けっこうインディーゲームやってる人いますし。
「レトロな」事務所を求めて
堀内:ここの物件はどういう流れで借りたんですか?
木村:元々ここに来たのは、2010年なんで、もう13年前、 最初は会社をここでしようと思ってなくて、もうちょっと広い事務所っぽいとこ探そうとしてたんです。当時、レトロビルみたいなの探してたんですよ。50年前ぐらいとかそれぐらいのやつ探してたんですけど、ええ感じのとこがなかなかなくて。探してるうちに、「もうここでいいか」っていう。
で、間借りじゃないけど、仮の事務所をどっか借りようっていうことでたまたまここが空いてて、「めっちゃええ感じやな」と思って。ここがもう気に入っちゃって。
堀内:ここはここで、木造のレトロさがありますよね。
木村:そうですね。でも、なかなかレトロ物件ってなくて。ここもけっこう人気あるんで、そのときはパッと空いて、たまたま取れたみたいな感じなんですけど。
実は最初は智恵光院の方に、レトロっぽいビルがあったんですよ。なんか公園があるとこで、昔、関西電気保安協会が入ってたビルがあって。そこが出ていくから、一棟で貸したいっていうのが出てて、本当はそれ借りようと思ったんですけど。4階建てかな、ビル一棟で20万ぐらいみたいな、すごい安かったんで。
でも最終的にデザイン会社さんが先にお借りになられて。今はカフェとかされてますけどね。僕らも最初夢を描いて、そこでカフェやろうとかなんかいろいろ妄想だけはあったんですけど。
結果的にこっちに来てよかったなと思いますけどね。ここは本当に場所が便利なんで。まあ銀行もあるし、郵便局もあるし、コンビニもあるし、電車は近いし。行き詰まったら、川に散歩に行けるし。すぐそこが駅のホームなんで電車の音はうるさいですけどね(笑)それも慣れてきたし、結果オーライみたいな感じですね。
堀内:ここは家賃はおいくらなんですか。
木村:ここは安いですよ。隣の6畳間が26500円。ここがちょっとだけ高いけどでも28500円。
3万しないんですよ。今はだから、4部屋借りてますけど、それでも10万ぐらいしかしない感じなんです。ここは固定費が安くてありがたいです。もっと値上げしてもいいんちゃうかなと思うんですけど。すごい人気は人気なんですぐ埋まるんで。
その代わり、ここ来たときは本当に寒いわ暑いわで。床だけは実は後から張ったフローリングなんですよ。ここのラインからこっちが新しいやつ。なんかいい色にしてくれて、もはやだいぶここもレトロ調になってきたんですけど。だからここの隙間とかめっちゃ空いてて床下見えてたんですよ。
あとここは電源が弱すぎて、1キロワット、1000ワットなんですよね。それも1部屋じゃないんですよ、全部屋共用で。どこかが電気使いすぎると、ワンフロア全部ブレーカー落ちるんで。
冬になったら他の部屋とかが暖房使い始めて、みんなエアコン使い始めるから毎朝停電になり、電子レンジをどこかの部屋で使えばまた停電して……それでは困るので、サーバーとかシャットダウンするということになったんで、新しく専用の電源を引き直したんですよ。けっこういろいろ魔改造はしてるんです。
エアコンも最初取り付けるの大変やったし。隣でやってたときはエアコンの穴がなかったんで、いわゆるウインドウエアコンを自分で買ってきて自分でつけてみたいな感じで、全然冷えへんし穴がないので、結局、窓を加工して、わざわざエアコン用コンセントも引き直してって感じで。
愛着もあるんでね。和式トイレとか怪しい玄関とか、勝手にリノベーションしていいならしたいなとか、いろいろ妄想が出ては消えていくって感じ。
堀内:たしかにここ来るとき、「ここで合ってんのかな?」とは思いました。
木村:たとえばショップとかも入ってるんでショップの名前出せるやつとか前にあってもいいんじゃないのとか思って。
鉄骨っぽい屋根の駐輪場のあたりとかシャッターとかも、あれはあれで味わいあるんですけど、ちょっとこの建物の良さが活かされてないなと。リノベします、ゲームで大儲けできたら(笑)
room6の事務所が入っている鴨柳アパートメント
会社の成長のキッカケとしてのゲームイベント
堀内:会社的には山とか谷というか、そういうのってありました? 良かったこととか大変だったこととか。
木村:大変なことはもう常々あるんで、会社としては山ではなくて谷あり谷ありみたいな感じで(笑)。基本的にインディーゲームって、いっぱい売れるもんじゃないんで。
でも、「ヨカゼ」ってレーベルを始めて、「アンリアルライフ」始めてっていうのが、そういう方向性でやっていこうってなった1つの転機ですね。その前まであんまりこう、深く考えてビジネスっていうのをやってたわけじゃなかったんですけど。
なんでそういうビジネス始めたかっていうと、ゲームイベントが大きいですね。東京ゲームショウとか、京都だとBitSummitというイベント(外部リンク)があって、2015年から毎年出展しています。そのようなインディーゲームイベントに 毎年5、6回出て出展してまして。もう今まで50回ぐらい。そうすると開発者さんとか会社さんとかと横の繋がりができるんで、ほとんどその繋がりを元にパブリッシング事業っていうのを始めて。
最初は「Switchにゲームを出したいんだけど、room6さんでそういうのって手伝える?」みたいな話から始まって、できるかもっていう話で手伝って、みたいなゆるいのから始まって。だから最初はあんまり深く考えずやってたんですけど、なんかそれが仕事になってきたみたいな。
さっきのアンリアルライフとかも1人で作ってますし、3人で作ったりとかそういう小規模開発のゲームをうちは扱ってるんで。そういう方たちとずっと一緒に作ってるんですけどそれが軌道に乗りつつあるかな。
最近ではモバイルゲームにも力を入れてまして。去年自社で出したモバイルゲームがけっこう好評で、それで会社の事業も安定してきて。なんとか軌道に乗り始めたかなというところですね。
2022年9月にroom6からリリースされたモバイルゲーム「ローグウィズデッド」
堀内:なるほど。そういう横の繋がりは京都だからできるみたいなところもあるんですかね?
木村:京都だからというか、地元と密着してみたいな感じはやってますね。
たとえば地元のホテル、九条の方にアンテルーム京都さん(外部リンク)っていうホテルがありまして。そこと仲良くさせていただいてまして、いろいろ一緒に活動したりとか。
さっきのBitSummitってでっかいインディーゲームのイベントも京都のイベントなので、これは大きいというかね、参加しやすい。けっこうモチベーションにはなってるとこはありますよ。
堀内:ここでは4部屋借りてるということでしたが、けっこう徐々に増やした感じですか。
木村:そうですね。残りの部屋は、倉庫と会議室みたいな感じにしてちょっとずつ勢力を伸ばしてるんです。元々もっと部屋増やしたかったんですけど、コロナになったんでね。コロナのときは一旦全社員リモートワークに切り替えました。それからは出社するスタッフも1人ぐらいですねずっと。あと月1回来るとか。
事務所に来る人間が少なくなり、仕事するスペースはあんまりいらなくなったんですけど、その代わりゲームイベントの用具というか出展のやつとかノベルティとか、いろんなモノが溢れ返って。だからどっちかっていうと倉庫が大変というか、1部屋はもう完全に倉庫になってて。人は減ったけど、段ボールが増えてきた(笑)
当初2部屋借りていた際にゲームを作るチームが6号室を使っていたことが「room6」の由来だとか
若年層からの支持を集めるroom6
堀内:それぞれのプロジェクトごとはどうやって始まるんですか?
木村:まあいろいろですけどねホントに。ご飯食べながら始まることもあれば、誰かの紹介で始まることも。イベントの場で会ってとか。まあでも、基本的には人と会って喋ってっていうところからだと思いますけど。「これやりたいんだけど」っていう相談から始まることもあるし。
あんまりないんですけどこっちから声かけてっていうのもあります。見かけたゲームにうちで出しませんかっていう形で。人の縁というか、Twitterでとかね。
今もゲームの開発ラインというか本数で言うと、10何本ぐらいとか動いてるんで、常になんか バタバタ状態です。
堀内:作品によってターゲットが違ったりみたいなのって、あるんですか。
木村:でもけっこう似通ってるというか、近いと思いますよ。けっこう作品のカラー、方向性の近いものを集めてるんで。
堀内:なるほど、さっきおっしゃってたように箱推しを目指している感じなんですね。
木村:そうですね。20代、30代の若者向けですね。今はそういう表現するかわかんないけど「サブカル」的なのが好きだったりとかそういう感じですかね。インディーゲーム好きっていうことなんでちょっとマニアックな方も多いでしょうね。
まあモバイルは若干カラーが違ったりするかもしれないですけど、モバイルゲームする層とインディーゲームする層も被ってはいますけどちょっと違ったりします。
堀内:最後にPRをお願いします。
木村:今はゲームを開発しやすい環境が整ってきましたので、ぜひ皆様ゲーム開発にチャレンジしてみてください。
あとはインディーゲームを遊んでいただけたらありがたいですね。今ではだいぶインディーゲームの認知度は上がってきましたが、まだまだニッチなジャンルだと思います。とても味わい深い面白いゲームもたくさんありますので、ぜひ遊んでみてください。
会社情報
会社名:room6
所在地:京都府京都市左京区田中上柳町21 鴨柳アパートメント
🛋HP
お問合せはShuJu不動産まで。
LINEの公式アカウントは【こちら】をクリック!
その他のフレンズのインタビュー
Bar電球さん「Bar電球 おいしいお酒とごはんのすゝめ」
バーリンクスさん「抜刀シーン有!疾すぎる漢、冨澤友佑」
デカい穴さん「まさかの閉店インタビュー⁉一体、何があったん?」
Shisha Cafe&Bar 焔ノ香さん「ここは水煙草とweb3の交差点、世界は何でも起こり得る。」
シーシャ屋 SLOTH KYOTOさん 「落ち着いた空間でゆったりとした時間を」
BAR Katharsisさん「現役京大生が経営する、語れるBAR」
コニシムツキさん「未発掘の表現者のオルタナティブアートスペースyuge」
本間智希さん「在野の研究者たちのオルタナティブスペース、下鴨ロンド」前編/後編
あきよし堂さん「何でも話したがる雑多屋 謎多き店主にインタビュー」