
2025.07.12
ラーメンと映画で ほんとうの自由 を表現する|みみお店主の佐藤訪米さんインタビュー
もしお店が潰れたら もうそのお店に行けない
潰したくない人は応援する
気にしない人は通り過ぎる
ただそれだけのことである
・・・
崖っぷちに立っているお店がある
個性的な店内で一癖も二癖もある男が麺をゆでている
気だるげで ぼそぼそとした口調だが
その麺は美しく 繊細で力強い
まさに作品である
しかし お店には閑古鳥が鳴いている
そして 原価は上がるばかりである
だから 数人の若者が存続のために動いている
本記事の筆者もその1人である
ハッシュタグは「#みみおを潰さない」
・・・
店主 佐藤訪米 を取材することで
Shuju不動産はエールを送る
彼の言葉には現代の常識にそぐわない点がある
それはアンダーグラウンドで育った男だからか
違う
社会との折り合いをつけることが嫌なだけだ
そして人情がある 無骨で純粋な人情だ
だからこそ
彼の生き様を目に焼きつけるべきなのだ
インタビュー&構成:今井壮太
写真:いずみりょうま
今回は左京区吉田東通りの呑めるラーメン屋「中華そば みみお」店主で、映画監督としても活動している佐藤訪米さんにインタビューします。
【この記事でわかること】
みみおってどんなラーメン屋?
佐藤訪米さんってどんな人?
クラファンの目的と背景とは?
京都アンダーグラウンドとは?
祇園・四条河原で培われた人情とは?
ラーメン屋と映画監督 二刀流の男
――どうも!Shujuの今井です!
訪米:はーい、よろしく。今日は呑むの?
――もちろんです。まずは赤星で。
みみお店主 佐藤訪米さん
――先日の新歓寄席では、お世話になりました。
※落語サークルOBの筆者が主催したイベント
訪米:んー。久しぶりにみみおで落語やったね。
――快楽亭ブラック師匠ぶりですか。
訪米:そうだね、たぶん。
――たくさんの若者が来てよかったです。カルチャーの詰まったこの空間で表現をするのは、演者にとっても刺激的で楽しかっただろうなと思います。
訪米:昔はもっと明るかったんだけどね。この店舗を使って映画を撮るために壁を真っ黒にしたり、いろいろ飾ったり、休業中に美術監督に改装してもらったの。子どもが喜んでくれるよ。
――へえ、撮影のために?
訪米:渋さ知らズのね。
佐藤訪米監督作品「NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地編」
――訪米さんってラーメンと映画の二刀流で活動していますけど、まずは映画ですよね。
訪米:うん。
――いつ、どうして、映画を撮ろうと?
訪米:まあ、なんとなく。
――なんとなく…?
訪米:うん、それとなく。
――それとなく…?
訪米:うん。
――えっと……幼少期から映画は好きだったんですか?
訪米:んー。中学生の頃にたまたま夜更かししたらテレビから映画が流れてた、それが初めてだったかな。
――ほお。
訪米:おれは播州の生まれで、昔は姫路まで行かないと映画館がなかったからさ、ミーハーだけどジャッキーチェンかっこええなーとか思って。で、高校の文化祭で映画を撮るってことになったから、おれが監督になっちゃった。
――それが初作品ですか。
訪米:うん。夏休みにみんなで山に登って、学校の8mmフィルムで撮影した。で、これええやん、おもろいやん、って気づいた。
――青春ですね。それから映画や撮影の勉強をしたんですか?
訪米:基本は独学で。日活の神代組の監督に内弟子でついたり、助監督として関わったこととかもあるけど、自分で企画して、人とお金を集めて、実際に撮って学ぶ、の繰り返し。
――拠点を兵庫から京都に移したのは、おいくつの頃でしたっけ。
訪米:高校卒業してすぐだから、18歳か。
――若い。どうして京都を選んだんですか?
訪米:まあ、なんとなく…。
――なんとなく…。
訪米:うん、それとなく…。
(虚空を見つめてみる)
訪米:そうか、太秦か。蒲田行進曲とか。
――なるほど。
訪米:でもまあ、行くあてもないから、最初は木屋町のJAZZ IN ろくでなしでバイトさせてもらったりしてね。
――お、ろくでなしですか!
訪米:知ってんの?
――7年くらい前に初めて行って、前マスターに浅川マキの魅力を説かれました。
訪米:そっか(笑)、あの人もとは若松孝二監督のとこにいて、京都に逃げてきたんやて。
――ええ!?知らなかった!
映画監督 佐藤訪米
訪米:あのBarで木屋町や祇園のいろんな人と知り合ったり、太秦や新宿の業界人と繋がって、なんやかんやで映画を撮った。27歳の時かな。
――「京極真珠」ですね!
訪米:16mmフィルムで撮影してくれたんやで、東映のキャメラマンが。フィルムは金かかるのよ。これ観たことある?
――ないです。そういう作品があるよって話だけ。
訪米:ほな、流そうか。
――わーい。
――おー。
――味のある部屋だ。
訪米:おれの住んでた部屋。南座の真裏。
――おもろいとこに住んでたんですね。
――っ!!!
訪米:これ磔磔で初上映したんだけどさ、女子大生にえらくウケたんよね。
――こ、この映画がですか?
訪米:うん。京都市中の女子大生が観に来たとかなんとか。
――にわかには信じがたい。
訪米:東京で劇場公開の初日、超満席の上映中に痴漢が出て交番に連行されたなぁ。
――それはちょっと信じられる。
みみお店主 佐藤訪米
――「京極真珠」はヒットしたんですか?
訪米:まあ、ちょっとね。製作費と宣伝費を考えると全然割に合わないけど、インディペンデント系の作品にしては評判になったみたい。2年間は映画でメシ喰ってたもん。
――すごい!でも、次回作を撮るということにはならなかったんですね。
訪米:やってたよ、脚本書いて金集め。でも、なかなか大変なんよ、まあ、いろいろあったけど、そうやね。次はラーメンやろうかって。
――どうしてラーメンを?
訪米:まあ、なんとなく。
――あ。
訪米:うん、それとなく。
(みみおバイトを終えた若者は黙って呑む)
――えっと…ラーメンはお好きなんですよね。
訪米:あんまり食わん、うどんの方が好きやねん。
――そうですか……。
――でも、みみおのラーメンて、めっちゃ美味しいんだよなぁ…。
訪米:ありがとね~。
――どうしてこんなに美味しいんですかね。
訪米:そりゃ、当たり前やけど一杯一杯全力で作ってるよ。素材も妥協しとらんし。うちは人間味が売りやからね。
――そうですか。
訪米:中国のお嬢さんに頼まれて、ラーメンの作り方を教えに行ったこともある。
――え、中国で教えたんですか?
訪米:うん。何度か通ってしっかり教えた。ラーメン屋を開くとかなんとか。
――そのお店はまだあるんですか?
訪米:ないやろ、知らんけど。
――興味ないんだ。
訪米:そいえば、ドミニカ人のレイナルドも、ラーメンの作り方を教えてくれって言ってたなぁ。毎日みみおに食いに来てたの。
なぜ潰れそうなのか
――みみおは潰れそうなんですか?
訪米:うん。
――どうしてそんなことに?
訪米:きっかけはコロナやけど、それはどこも同じやね。
――あの頃、みみおはほとんど営業していなかったような。
訪米:だって、客きいひんもん。ラーメンなんか10杯20杯売ったところで赤字なの。あと、自粛期間はおれたち飲食店も辛かったけど、劇場やライブハウスはもっと辛かった。
――オンライン配信とグッズ販売だけじゃ持ちこたえられないですよね。
訪米:うん。せやから、だれも来ないなら映画を撮ろう、表現の場やアーティストを応援せにゃならん、と思って。
――そういった動機で「NEVER MIND DA 渋さ知らズ 番外地篇」を撮ったんですね。
訪米:映画はしっかりできたんやけど、制作に2年近くもかかったから、その間はみみおが休みがちになって、「いつ行ってもどうせやっとらんやろ」って印象がついた。映画作るって遊んでるようにしか思われへんやろうけど、うちらみたいな低予算の現場っていうても1000万くらいかかってるから、監督っていうても人生投げるくらいの覚悟でやってんねんで。だからインディペンデントの作品を2年で完成ってまだ早い方やと思うよ。
――僕も2022-2023年はみみおをそう思っていました。てか、今もそう思っている人がいますよ。
訪米それはもう、しっかりと営業し続けるしかない。本格的に再開して2年くらい経つし、これからも続けるつもりやから。1日18時間は働いてるよ。
――18時間!?
訪米:映画と二刀流なんか冗談にしか思えへんやろうけど、そやし命懸けでやるしかしょうがないねん。
営業日↓
土曜日・日曜日
12時00分~14時30分
18時00分~23時30分
月曜日・火曜日
定休日
水曜日・木曜日・金曜日
18時00分~23時30分
訪米:あとは、原材料費、ガス代、電気代が高すぎる。
――ですよね。
訪米:ラーメン原価5割いっちゃうもん。
訪米:天下一品があれだけ潰れたのも、そういうことちゃうん?
――かもしれません。
訪米:でも、だからこそ、食材にはなおさら妥協できへん。ラーメンすんなって社会に言われてるみたいやけど。
――多くの飲食店で、コロナ以降は苦しい経営が続いているようですね…。みみおはラーメンの値上げが他店より早かったんで、ちょっと高級なイメージがついちゃったけれど、現時点では他店が追い付け追い越せって感じ。ほんと厳しい時代だと思います。
訪米:実際高級やねんで、でもお客さんのことを考えて安売りしてるの。だからもっと学生さんにも来てもらわんと儲けもなにもないねん。
ものごいすること ~クラファンへの思い~
――現在クラウドファンディング中ですね。
訪米:うん。
クラファンサイトより
訪米さんの思いのこもった言葉が綴られている
――「京都アンダーグラウンドの逆襲」、強烈なタイトルです。
訪米:ここ、左京区って京都アンダーグラウンドの源流やん。京大西部講堂や吉田寮もあって学生たくさんおるし、神社仏閣も多いし。カウンターカルチャーの最後の砦やのに、今は風前の灯火。みみおもそう。このままじゃ京大もあかんやろって思ってる。
――みみおのクラファンがうまくいって経営が立ち直ると、京都アンダーグラウンドの逆襲が始まるんですね。
訪米:別に、俺についてこい!ってつもりはないしただ、みみおでやれることはやる。ライブもそうやし、人を繋ぐってこともそう。だってこの辺りにはまだ土があるから。みんなで檸檬でも育てて、みたいな。土のないところでは人間は生きていけないからね。
――なるほど。
訪米:基本的に何も拒まない。ここは「表現の自由軒」やから。織田作な、うちはカレー屋と違うけど。
――「表現の自由軒」っていい言葉です。
――ところで、あるお店がみみおのことを「詐欺まがいのものごい」って批判してましたね。
訪米:そうなん?
――はい。クラファンのことをよく思っていないのかな、と。
訪米:ふーん…。そういう大人が増えとるな。
――どういう大人ですか。
訪米:同じ町だからこその、助け合う意識っちゅうか、日常の付き合いっちゅうか、そういうのがどんどん消えてる。あげつらうばっかりやん。たしかにここは村八分(バンド)の地元やけど、そういうことちゃうやん。ロックの聖地の名に平気で泥を塗ってる。
訪米:ロックはひと言でいうと反レイシズムやで。SNSのおかげで世の中、日常の付き合いっちゅうか、そういうのがどんどん消えて、頭ん中になんか変なもんが湧いてきてんとちゃう。
――それは残念ですね。
訪米:否定するだけじゃむなしいやろ。俺は生き残るために、ものごいもするよ。なんであかんの?この店がなくなったら終わりやもん、潰されるまで全力であがくよ。
――カッコイイです、本当に。
――話は変わりますが、「勝手に大人食堂」って今もやってるんですか?
訪米:やってるよ🍜
クラファンサイトより
訪米:無料やと逆に頼みづらいかもしれないから、投げ銭にしてみたり、いろいろ試行錯誤してる。でも、やめるつもりはないね。
――経営が厳しくても、続けるんですね。
訪米:困ったときはお互いさまやし、「勝手に大人食堂」が原因で潰れることはないやろ(笑)。
――そうですけど…。思うに、訪米さんって、とても善い人ですよね。
訪米:そう?すっかり貧乏神扱いやない?
――コロナ期の映画製作もそうですけど、困っている人を見捨てないって気持ちが行動原理にあるし、継続的に実践してます。
訪米:そりゃまあ、当然やん。祇園で20-30代を過ごして、いちばん大切なのは人情やって学んだし。
――それこそが現代に失われているものだと思います。みみおがクラファンを成功させて、ほんとうの自由、ライブの力、そして人情の意味をこの街に発信し続けることを、今井は切に願います。
訪米:ありがとー。
――ところで、クラファンの達成率はどうですか?募集期間3カ月で、残り1カ月を切っていますが。
訪米:はじめは良いぺースやったけど、予想通り中盤は全然ダメ。これからの追い上げがないとあかん、つぶれる。
――まさに正念場だ。誰か55万円かけてレシピを習いに行ってくれ…!
訪米:ほんまに、応援よろしく。
店舗情報
店舗名:みみお
🍜X
🔗 クラウドファンディングはこちら
▶京都アンダーグラウンドの逆襲 – ラーメン屋と映画の二刀流 中華そば みみお&ミミプロ復活!
🎥映画サーキット情報はこちら
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